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2022年4月29日 (金)

『新版』が出るはこびとなりました

 ちょうど10年前、2012年に『詳しくわかるモンゴル語文法』(以下、旧版とします)を白水社から刊行したのですが、このたびその新版が出ることとなりました。ここ2年ほど入手がかなわない状態が続いており、ご迷惑をおかけしました。正直なところ、昨今の出版業界の状況を見るに再版は難しいかなとなかばあきらめていたところだったのですが、幸運にも新版という形で刊行がかないました。まずは刊行に向けてご尽力くださった白水社Sさんに深謝申し上げます。

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『詳しくわかるモンゴル語文法[新版]』  

 今回の新版は、旧版とページ数は変わらないのですが、さまざまなところを修正しました。とくに大きく変更したのは、表記を現行正書法に忠実に対応させたことです。詳しくは新版のコラム「悩ましい正書法」(pp.148-149)に譲りますが、数年前の正書法改正(厳格化)はわりと大きな変更を伴うものでした。そのため例文・単語を総ざらいし、修正すべき箇所を適宜修正しました。これは現行のものに対応させたものであるため、じつはすでに刊行されている辞書やその他出版物においては異なる形であらわれています。その点では旧来刊行されていた書籍を読み解くには逆にやや不便になる可能性もあります。ただし、語学書としてやはり適切に修正対応することは必要ですので、現行のものに準拠させた次第です。

 このほか、(わずかではありますが)いくつかコラムを差し替えました。以前のコラムもそれぞれ愛着があるものではありましたが、せっかく版を改めるということですので、もうちょっとリニューアル感を出したかったというのがその理由です。今後、「廃盤」となった旧版のコラム数篇については徐々に当ブログにて公開していこうと思います。

 あと一つ、大きな変更点はCDを廃した点でしょうか。まあそうですよね。ウェブ上に音源が置かれており、ダウンロードできるようになりました。新版をご購入いただくと音源にアクセスできるようになっています。音源の再収録はしていません。10年前に録音したものがそのまま(ややトラックの切り貼りをしたうえで)収録されています。

 ところで、ありがたいことに旧版はこれまでモンゴル語の音韻・文法等を扱う論文等でも引用・言及していただいているのですが、旧版も新版も位置づけについてはやや注意していただければと考えています。この本はあくまで語学書という位置づけで、規範的なもので、言語学における記述文法とは異なります。このことは旧版「まえがき」でも言及しているとおりです。とくに一般向け語学書ということで、論文スタイル(引用形式であるとか、論拠の展開であるとか)には沿っていません。無理をお願いしてこの本には参照文献欄を設けていますが、一般的な語学書ではこうした文献欄自体が無いことも多いですし、文献欄を設けているからといって適切に引用箇所が示されているわけでもありません。さまざまな説明は、先行研究ですでに言及されていることをもとにまとめなおしています。このあたりをご理解いただいたうえで、語学参考書として役立てていただければと思います。

 「まえがき」はまるごと差し替えました。ここで旧版の「まえがき」を、ごあいさつ代わりに転載しておきます。

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 社会主義時代の「モンゴル人民共和国」はもはや過去のものとなり、いま「モンゴル国」は急速に発展しつづけています。両国間の行き来もスムーズになりました。東京・両国の周辺では鬢付け油の香りとともに、モンゴル語が聞こえてくることも珍しくありません。かつて遠い国だったモンゴルは、いまや遠さを感じさせない国へと変わってきています。
 その一方で、モンゴル語に関する情報はこれまで決して豊富とはいえませんでした。もちろん、これまでにもさまざまな語学書が出版されていますし、また研究の世界でも日本人による多くの成果があります。ただし、一般の方がアクセスしやすい形、つまり日本語で書かれ、文法項目が一通り説明されているような市販の学習書は、ほとんどありませんでした。そこで本書を執筆する試みがはじまりました。
 しかし、私は大いに悩みました。私はモンゴル語や、周辺の言語の研究に従事しています。研究の際には、対象となる言語を「記述的」に分析することが求められます。その反面、語学書はできるかぎり「規範的」に書かれることが望ましいものです。この記述と規範との間の折り合いのつけ方に大いに苦慮しました。また、本書は文法書であり、なおかつ学習書であるということを念頭に執筆しています。学びやすさに配慮して、モンゴル語学で伝統的に用いられてきた文法用語を使わなかった部分もあります。その点では、モンゴル語をすでに知っている方にとっては、かえってわかりにくい部分もあるでしょう。しかしながら本書をきっかけに、よりモンゴル語に興味をもち、より深く学ぼうと思う方が出てくだされば幸いです。
 モンゴル語にかかわり始めてから現在にいたるまで、私はさまざまな方からご指導いただいてきました。とくに東京外国語大学でモンゴル語をご指導いただいた諸先生方をはじめ、多くの方々のご教授なくしては、本書の出版には至らなかったと感じています。また、参考文献にも記載したとおり、本書の内容はこれまでの数多くの先行研究にもとづいて書かれています。こうした成果を残された研究者の方々を含め、皆様に感謝する次第です。

山越康裕 (2012)『詳しくわかるモンゴル語文法』白水社. p.3「まえがき」より

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ついでに、旧版が出た際のブログエントリ

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